ハンバーガーは好きですか?-(2)

― 私のハンバーガービジネス史 ―

ハンバーガーショップで使われているパッケージには多彩な商品があります。中でもハンバーガーはメニューアイテムも多く、レギュラーのハンバーガー包装紙の他にクラムシェルと呼ばれる紙カートンが使われています。メニューがハンバーガーとサイドメニューであればパッケージも20種類くらいでしょうか。メニュー毎に印刷された包装紙は、耐油紙からPEラミネート紙に替わりましたが、画期的な商品が日本で誕生します。それがモスバーガーのPEラミバーガー袋です。シズル感を求めたモスバーガーがたっぷりのソースに拘り、垂れないようにソースを保てる袋にしたのです。もう一つの成果は包装紙(バーガー袋)に商品名を印刷せずに、カラー分けした品名シールを導入したことです。袋を共用することでハンバーガー包装紙を置くスペースを削減し、片手でも包装ができることを意図した改善だったと思います。シールピーラーで1枚1枚剥がせるシールは、片手で簡単に貼り付けられます。狭いFC店の厨房でも、効率的なドレスやサービスができることを狙った、会心の一手だったでしょう。

こうした知恵や改善が繰り返され、ファーストフートの発展を支えています。クラムシェルも当初は発泡スチロール製の成形品でしたが、EPSの環境ホルモン問題を経て、紙のバーガーカートンに変わりました。このカートンは両サイドの8か所貼りが必要でしたが、当初は貼り加工機がなく、ニーズを追いかけて各社が開発対応したものです。現在ではナゲットなどのサイドメニューにも使われ、印刷効果もあって訴求力の高いパッケージとなっています。

紙コップはどのチェーンもロゴやデザインが入り、テイクアウトのニーズも高く、とても目立つパッケージです。営業担当としては印刷紙コップの獲得が大きな目標でした。もちろん実現できたときの喜びも大きく、何度か嬉しい思いを味わいました。

この紙コップも進化しています。ホットカップの内面PEラミネートは今も多くが同じですが、コールドカップはグルー(糊)貼りでカップ成形した後にワックス加工していました。当時のコールドカップは爪でこすればワックスが削れたものです。今は両面PEラミネートカップが主流になっていますが、今後はその紙にも環境対応が必要とされるでしょう。FSCという森林環境の保全とサスティナブルを目指した活動の次に来るものとして、紙の非木材化への動きも始まっています。カフェグッズがいち早く商品化したPLAバガスカップはその一つです。

ハンバーガーショップの仕事で印象深いのはロイヤルホストジュニアでした。特に仲良くさせていただいた店長以外にも、古参クルーとも親しくさせていただく中で、店長だけで店は回らないことを知りました。店長がクルーとのコミュニケーションに注力し、変わらない美味しさで商品を作り上げ、お客様に笑顔でお応えしている姿を近くで見られたことは、とても勉強になりました。皆で次の展開に向けて努力する中で、ベッカーズの立ち上げが決まります。ロイヤルの副社長だった井上恵次氏がベッカーズ展開の任を担い、ファーストフード・ジャパン社が始動したのです。こうして1986年11月にベッカーズ1号店が誕生します。その場所は新宿三井ビルのホストジュニアでした。

当時は大型新規参入として話題性も高く、そのスタートには多くのメーカーや業者が押し寄せました。従来からの取引業者であっても、継続して取引できる保証はありません。身震いしながら通い詰め、何とか多くの資材を供給することができたとき、安堵したのを覚えています。

新しくスタートしたベッカーズには業界から多くの人材が参加していました。皆それぞれに経験豊富で、営業戦略やメニュー開発に議論を戦わせています。そうした熱意で今までの市場を十分に検証しながら、独自メニューをいくつも生み出したのです。管理が難しいとされる焼きたてクロワッサンもその一つです。店舗のオーブンで焼成したクロワッサンに、ナイフを入れて具を挟んだサンドイッチは、若い女性客に特に人気がありました。ハンバーガーもパティを増量した、ボリューム満点のベッカーズバーガーがあり、ダブルパティでない食べ易さも提供しました。後発ならではの切り口を求めて、総力を挙げていたと思います。こうした中でクロワッサンの包装紙には苦労しました。パリッとした焼き立て感に拘り、蒸れるラミネート紙ではなく耐油紙を選んだのです。袋口の表側を斜めにカットしたクロワッサンの平袋は、なかなか加工機が探せず、一度受けた工場もトラブルが多いと音を上げる始末。なだめながら次を探すのですがなかなか見つかりません。単純な平袋ならば一般の封筒貼り機で加工できるのですが、片面がカットされているので機械に通せないのです。どうにか進んだのは元住吉にある小さな工場でした。そこの社長とあれこれ試し、テンションを細かく調整しながら、低速で送ることでどうにか連続加工が出来たのです。機械の調整だけでも3時間を超えました。お互いに商売抜きで頑張りましたが、とても価格要求には応えられません。この状況を報告し、最終的に仕様を変えさせていただきました。大きな失敗でしたが、町工場の技術力を知る上で良い機会になりました。

ベッカーズの取引でもいろいろ勉強させていただきました。中でも都度2回参加した訪米視察ツアーは強く印象に残っています。取引業者にもアメリカのファーストフード市場を知ってもらいたいとの趣旨ですが、ハード過ぎるツアーでした。第1回は中西部からフロリダです。空港に着くなり大型バスでツアーが始まります。1日20件を超えるショップを回り、食べ続け、感想会や反省会を終えて就寝は夜11時過ぎ。翌朝は8時前にはバスに乗るのです。次々に周る店舗で、商品を実際に買って分析し、食べ、感想をメモする。フードサービスに従事する方には当たり前の行動なのでしょうが、畑違いの取引業者の担当たちです。愚痴はこぼすし、疲れ果てて寝込む事もありましたが、それでも約2週間を頑張り抜きました。視察中に気づいたことですが、地域やショップによって客層がはっきり分かれます。アッパーなハンバーガー店には白人客が多いのですが、一方でメキシカンフードやポピュラーなバーガー店では、黒人客やラテンアメリカ人の客が多い。どこのお店も賑わっているのですが、そこには交わらない一線があるかのようでした。

視察の最後には達成した高揚感を味わったのですが、意地悪なことに、帰国後のレポート提出まで課題は続きました。その課題は「自分たちの、理想のハンバーガーを創ること」でした。

この視察の中で特に印象深かったことがあります。フロリダのディズニーワールドを訪問し、ある部門のマネージャーからレクチャーを受けたことです。その部門がウォルト・ディズニー・イマジニアリングでした。ウォルト・ディズニーの理念を形とするイマジネイションとエンジニアリングの造語ですが、全てのアトラクションを設計する重要な部門です。さすがにディズニーは凄いなと感心したものです。多くの人が憧れるディズニーワールドですが、裏門から入場し、バックヤードのあちらこちらを見学して講義を受ける。これも得難い経験になりました。

その後、JR東日本の傘下に入り、駅構内の有力ロケーションを得たベッカーズは、ベックスコーヒーショップを開発して展開を始めます。現在もベッカーズを15店、ベックスコーヒーショップを70店ほど展開しています。今後も進化・発展して欲しいチェーンの一つです。

夢に向かってひた向きに努力しても、その夢がかなわないことも多いフードサービス。カフェやコーヒーショップの経営を目指す方々に、後悔することなく頑張っていただきたいと思っています。

今でも目に焼き付いている光景を思い出します。出張先の金沢から福井に向かう途中で、有名な温泉地を抜けました。そこには見る影もなく廃墟のような高層ホテルが立ち並んでいたのです。企業の社員旅行が慰安旅行と言われていた時代。時には数百人が泊まるためのホテルが求められました。そして大型ホテルが目指したのが客の囲い込みです。宴会が終わると二次会、三次会まで館内で提供し、夜食のラーメン屋台や射的やスマートボールなどの遊技場まで館内に設ける。その結果、温泉街は活力と多様性を失い、バブル崩壊の痛手を跳ね返すことができなかったのです。次のファミリー旅行や個人旅行の時代には、見向きもされない修羅場が訪れます。どうして温泉街が共存共栄する方法を見失ったのか、高層化への過大投資や過剰設備による経営圧迫で、利益至上主義に走ったことは容易に想像できます。

カフェやコーヒーショップの魅力はそれぞれの豊かな個性にあります。そして個性は多様性に支えられています。多くの選択肢が当たり前にある市場は豊かですし、カフェやコーヒーショップは、お客様に豊かさを提供する仕事です。そのために大切なことの一つは、コーヒーの深い知識と愛情かも知れない。今はその努力を支えるための選択肢や情報がとても豊富な時代です。

私がコーヒーの知識を得る上で座右の書としている本があります。2008年に柴田書店から発行された『コーヒー「こつ」の科学』で、著者は石光商事の石脇智広さん(現・代表取締役)です。Q&Aスタイルでどこからでも読みやすく、興味ある事柄からページを開くことができます。

私事ですが、今手元にあるミルを8年使っています。2013年に金沢のキャラバンサライさんを訪問した折に、セール価格で購入したボダムのコニカル。スイッチの反応が鈍くなり、静電気にも悩まされています。しかし粒度は均一で微粉も少ない優れものです。自宅用に次の電動ミルを探しているのですが、やはりコニカルかな、と悩みながら読みふけるこの頃です。

2021 年 7 月

小林 文夫

© 2021 Cafegoods Co.,Ltd.