「コーヒーを謳う」(カフェグッズ音楽室のはじまり)

歌を聴くことは好きでした。私が最初に音楽らしいものに触れたのは小学3年のとき。その春の担任が音大出の新人教師で、多くの時間を音楽室で過ごしました。クラスで合唱大会に出ましょうと申し込み、特訓が始まったのです。机一列ごとに音楽室に呼ばれ、一人ずつ「ア~ア~ア~」と発声し、グループ分けから始まりました。たまたま調子が良かったのかボーイソプラノに入りました。それからが大変で、グループごとに練習が続きます。姿勢を注意・指導され、鼻濁音を教えられ、最初の全体練習の時はそれぞれが声を張り上げ、バラバラで歌が続かない始末。1ケ月くらいしてようやく先生に笑顔が戻りました。

デフォルメした怖くないベートーベン

大会の発表曲は「もみじ」の輪唱でしたが、追いかけっこみたいで楽しかった記憶があります。合唱大会は入賞で終わりました。金・銀・銅賞以外はすべて入賞だったと思います。その後もクラシックのレコード鑑賞や「ここに泉あり」などの映画鑑賞など、とにかく音楽の時間が他のクラスよりもかなり多かったと記憶しています。ただ、音楽室には怖い顔写真がたくさん飾られているので好きにはなれなかった。今も同じ顔ですが、飾られたベートーベンの顔の怖かったこと。

なぜか3年連続で担任となった先生は、5年の新学期に姓が変わり、2学期の終わりに退職されたので、それ以降は特に音楽に親しんだことはありませんでした。車いす生活になって10年ほど前からクラッシックを聴くようになると、聞き覚えがある曲がいくつもあって驚きました。楽譜は読めない、楽器も弾けない、もう歌うこともない、そんな私が無謀にも「コーヒーと歌」に取り組んだのです。

実はコラムを書き始めるに当たり、いずれ書きたいと思っていたテーマの一つが「コーヒーと歌」でした。それはコロナ禍の時代にあって、自家焙煎店やカフェやコーヒーショップと、歌手(アーティスト)の環境が似ているなと思えたからです。どちらも下積み期がとても長く、評価が高まれば成功します。しかし苦労の末にチャレンジが続けられないこともある。加えて現在はコロナショックが極めて重く圧し掛かっている。折角軌道に乗り始めていても活動できないジレンマに襲われています。この両者を結び付けて応援できないか、と私なりに思い巡らせていました。行き着いたのが楽曲を紹介して広く聴いてもらうこと。カフェの方々にも喫茶店の方々にも自家焙煎店の方々に聴いていただき、できればお気に入りを店内で流して、「コーヒーの歌」がこんなにも多いことを伝えて欲しいのです。コーヒーが生活を、ひいては人生を彩る存在であると。

コーヒーの歌といえば、よく知られている西田佐知子の「コーヒー・ルンバ」(1962年発売)があります。元歌は1958年にホセ・マンソ・ペローニ(Jose Manzo Perroni)のMoliendo Café(対訳は「コーヒーを挽きながら」)ですが、なんと4年後には日本でレコーディングされました。ハイカラでエキゾチックな曲は彼女のハスキーボイスにとても似合い魅惑的です。そして現在までに多くの歌手にカバーされています。私がこの曲が代表、と思うのもこの点から。また古くからの名曲もいくつか知り、10月のコーヒーの日あたりにコラムを出せればと考えていました。8月下旬から調べ始めたのですが、すぐに敢無く撃沈しました。

そもそもの発端は活躍目覚ましいヨルシカの「雨とカプチーノ」、「詩書きとコーヒー」の2曲でした。最近はコーヒーの曲が多いなという印象は持っていましたが、調べ始めるとコーヒーを冠する曲名だけで4百もの楽曲数があります。さらに歌詞にコーヒーが謳われるものとなると、想像をはるかに超えて6千曲を超えました。これは日本のポップスやロックやフォークソングの数です。これ以外にも廃盤などでリストに載らない曲も多いはずですが、そこまで調べる手段がありません。撃沈後にこの課題を避けて通ることも一つの選択肢でしたが、単純に悔しいし、とても失礼なことだと考えました。なぜならこのたくさんの楽曲は現在のコーヒー文化のバロメーターではないかと思えたからです。

コーヒーに一方ならぬ情熱と愛情を抱いて頑張ってきた多くの方々がいます。カフェやコーヒーショップを始め、喫茶店、コーヒー店やスタンド店があります。豆売りならば自家焙煎店やコーヒーロースター、そして大小のコーヒー会社があります。そうした方々の実直な努力の積み重ねがあって、消費者にコーヒーが届きます。コーヒー体験や様々な情報による啓蒙活動が、消費者を育て、嗜好を高めてきたのです。もちろんスターバックスを始めとする渡来のコーヒーショップの功績も見逃せません。特にこれらとリンクするのが近年の女性アーティストの活躍でしょう。しかしその役割が多くのスモール・カフェに移ろうとしている。私の率直な認識です。

今、多くの楽曲に耳を傾けると、それぞれの曲の歌詞にコーヒーへの親しみや愛情、そして賛歌が読み取れます。このことには本当に感動しています。ここまでコーヒーが人々に受け入れられ、愉しまれている事実を多くの関係者に伝えたい、との思いで無謀とも思える今回のチャレンジを続けました。この3~4ケ月で3千近くの曲を聴き、気になる曲の歌詞を調べました。これからいくつかのグループ分けしてプレイリスト風に伝えていきたいと思います。リストは最大で90分としましたので、曲数では20~22曲ほどになります。最終的な総曲数は400曲を超える見込みです。

始めるにあたって曲名調査に、歌詞の検索にと頻繁にアクセスさせていただきました「歌ネット」に感謝いたします。

歌ネット・ 歌詞検索サービス 歌ネット (uta-net.com)

また楽曲は私が利用しているApple Musicで聴き、確認しました。プレイリストのような曲リストをつくる際には、全てApple Musicの、歌手名(アーティスト)、アルバム名、楽曲名を表示しています。興味ある方はリストを参考に検索をお願いします。もちろん現在は音楽配信サービスもたくさんあり、ご利用中のサービスでも検索できるのではないかと思います。音楽は人それぞれの好みが大きく分かれる趣味ですので、是非ご自分でも探してみてください。「コーヒーを謳う」楽曲はとても多いので、きっとお気に入りが見つかるでしょう。

ところでこれからアーティストや作詞・作曲者の方々のお名前が頻繁に登場するのですが、勝手ながら、敬称はすべて除かせていただきました。この失礼をお詫び申し上げます。

また進めるにあたりまして、皆様からの「こんな歌もあるよ」といった情報や、「間違いではないか」などのご指摘をいただければ幸いです。

夜の長い冬に、美味しい珈琲とお気に入りの音楽でお愉しみください。

2021 年 12 月

小林 文夫

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